名盤の威力

一枚のアルバムには、様々な聴き方や楽しみ方がある。だが名盤には、それが無数にあるように思える。そしてそれぞれの名盤の背後には、ほぼ例外なく感動的なドラマが隠されている。ミュージシャンに関するもの、プロデューサーやレコード会社、あるいは演奏や収録曲や録音に関するもの。その意味で、名盤と他のアルバムを画す基準を、そのドラマの質と量に置く事も又不可能では無いかも知れない。
 とは言え最大のドラマが、その音楽である事は言うまでも無い。多くの人々に愛聴され、様々な時代を乗り越え、今なお聴かれている名盤には、想像している以上の“音楽”が詰め込まれている。そしてそれは、聴き尽したと思った瞬間、それまでと全く異なる表情や局面を見せ、新たな音楽として生まれ変わる。当然だろう。歴史に名を残すミュージシャンの歴史的な演奏が安易に聴き尽せるはずもなく、その音楽の中には、聴き手が永遠に辿り着くことのできない領域があるに違いない。従って名盤が聴き手にとって「真の名盤」となるのは、5年10年と時が経過してからかも知れない。そして、それこそが名盤だけが備えている強度であり、威力というものだろう。そう考えれば、ジャズ専門誌等に登場する名盤の多くが十年一日の如く同じようなラインアップになるのは、むしろ当然の事であり、必然とも言える。
 名盤とは、いつ、いかなる時代においても名盤であり、いかなる時代の耳にも通用するものでなければならない。そして事実、名盤として認知されているアルバムは、いつ、いかなる時に聴いても新たな感動を運んでくる。