“ジャズマスター”が選ぶ、ブルーノートなんでもベスト5

サウンド・ベスト5
①『アス・スリー』ホレス・パーラン(4037)
②『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』ソニー・ロリンズ(1581)
③『レディ・フォー・フレディ』フレディ・ハバード(4085)
④『トーキン・アバウト』グラント・グリーン(4183)
⑤『ブハイナズ・デライト』アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(4104)

 音がいいブルーノート・・・・・真っ先に無条件で思い浮かぶのが『アス・スリー』だ。とにかくベースのはじけ方が凄まじい。口火を切るタイトル曲は、もはや恐怖に近い切迫感がある。演奏された生音そのものには、ここまでドロドロとした情念はこもってないはず。それを盤にこめたのが、エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)。おそるべしとしか言いようがない。
 次の『ヴァンガードの夜』は、完全にロリンズが主役の録音。テナーのカタマリが見事にスピーカーの中央へ現れる。形で言うと、大玉転がしの玉だ。“ヴァンガード”の最前列中央に座った気にさせる。バックの二人はというと、わりと奥にいる。そのメリハリがいい。これが、ライヴの臨場感を倍増させている。
 『レディ・フォー・フレディ』は、全楽器の音が、高水準でバランスよく収録されているところがイチオシ。ほとばしるエネルギー感に加えて、切れ味が鋭い。音のエッジがはっきりしている。フレディもウェイン・ショーターもマイクに楽器を突っ込んでいるんじゃないかと思わせる。やたら飛び出しがいいのだ。
 ギターとオルガンのビッグ・トーンが楽しめるのが『トーキン・アバウト』。グラント・グリーンラリー・ヤングエルヴィン・ジョーンズは1曲目から汗びっしょりだ。こっちもかっかと熱くなってくる。激しい絡み合いを余すところなくとらえた名録音だろう。
 最後はドラム編。『ブハイナズ・デライト』。ブレイキーのハイハットは、決して生っぽくない。もっとエネルギッシュでジャリジャリしている。まるで鉄板で熱く煎った砂をシンバルにまぶしたよう。最後にもう一度言おう。RVG、誠におそるべし。

★ ジャケット・デザイン・ベスト5
①『スプリング』トニー・ウィリアムス(4216)
②『ユニティ』ラリー・ヤング(4221)
③『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマンVol.1&2』フレディ・ハバード(4224,4225)
④『ザ・コングリゲーション』ジョニー・グリフィン(1580)
⑤『クレイジー・ベイビー』ジミー・スミス(4030)

 BN黄金時代のジャケットのほとんどを手がけたのは、天才デザイナー、リード・マイルズ。彼は、オーナーのアルフレッド・ライオンの趣味指向をよ〜く踏まえた上で、シンプルな文字、大胆な写真のトリミング、幾何学的なレイアウトといったテクニックを駆使して、一目でそれとわかるBNのジャケットのスタイルを作り上げた。 
 その究極が①だ。鮮烈なオレンジと白の二色で画面を分割して、タイトルとリーダー名、レーベルのマークのみを配するという度胸のよさ。しかし、オレンジと白のバランス、タイトルをオレンジに、リーダー名を茶にするといった細かい芸も見逃せない。
 文字や数字を主役にしたジャケットも多い。その代表作が②だ。黒々としたゴチックのデカ文字は強烈に印象に残る。そして憎いのは、Uの字の中に配されるオレンジのタマ四個。もしかして、カルテット編成のミュージシャンの数を表すのか。
 R・マイルスは、ライオンの盟友フランシス・ウルフが撮った写真を用いても、名ジャケットをたくさん制作した。③は、雪原に寄り添って立つ三人の写真だけでも絵になるところだが、それにBNスタイルの文字をレイアウトすることで完璧な作品となった。
 アンディ・ウォーホルのイラストを使ったものではK・バレルの横たわる女性が有名だが、より存在感があるのが④。力強い描線と鮮やかなシャツの模様は、J・グリフィンのプレイそのものだ。当時のウォーホルは駆け出しのイラストレーターだったというが、すでに非凡なセンスと画才を見せている。それにいち早く着目したBNも偉い!
 「車」と「美女」は、BNのジャケ写の重要なアイテムだが、⑤はその典型的な一枚。車と美女というのは、とくに黒人男性の憧れの的であるようで、ラップ系のビデオクリップなど見ると、現在もなおこの二つが成功のシンボルであることがうかがえる。

★ ライヴ・アルバム・ベスト5
①『ライヴ・アット・ザ・ライトハウスエルヴィン・ジョーンズ(BNLA)
②『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』ソニー・ロリンズ(1581)
③『バードランドの夜Vol.1』アート・ブレイキー(1521)
④『ドゥーイン・ザ・シング』ホレス・シルヴァー(4076)
⑤『カフェ・ボヘミアケニー・ドーハム』(1524)

 ブルーノートのライヴ・アルバムには、格別の思い入れがある。80年代の始め頃、これらのアルバムの演奏を耳にして、まだ行ったことのなかったニューヨークの“ヴィレッジ・ヴァンガード”や“ヴィレッジ・ゲイト”“バードランド”などの名門クラブに思いを馳せたものだ。実際、これらのクラブの存在もロリンズやブレイキー、シルヴァーらがのこした名演、名盤によって世界中のファンに知られるようになったわけで、ジャズ・クラブの名が大きくクレジットされているLPレコードは、店にとって世界に情報を発信できる、最大の宣伝媒体ともなったわけである。しかも熱心なジャズ・ファンがお金を払ってそれを買うのだから、これは究極のターゲット・メディアではないか。もっとも当時は、そんなことはこれっぽっちも考えず、演奏に熱中していたのだけれど・・・・・。
 どのアルバムもミュージシャンのベスト・プレイはもとより、客席のざわめきや喚声を含めて、クラブそのものの雰囲気がよく捉えられており、まるでクラブの客席に座っているかのような気分にさせてくれるのが嬉しい。
 ところでブルーノートのアルバムは、CDよりも以前のアナログ盤のほうが音がリアルで良かったというのが僕の印象。その不満も、近年リリースされたRVGコレクションでは一掃されている。なんと録音エンジニアだったルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)自身が、当時を思い出しながら新たにCD用にデジタル・リマスタリングしているのだから、これに優るものはない。上記のアルバムもRVGで耳にするのが、真の醍醐味である。

★ 衝撃のデビュー・ベスト5
①『インディード!』リー・モーガン(1538)
②『ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター』ジミー・スミス(1512)
③『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージックVol.1&2』セロニアス・モンク(1510,1511)
④『メモリアル・アルバム』クリフォード・ブラウン(1526)
⑤『テイキン・オフ』ハービー・ハンコック(4109)

 ブルーノートはのちのジャズ・シーンを背負って立つ若手に多くのレコーディング・チャンスを与えている。それはひとえに優れた素質を見抜くことができたアルフレッド・ライオンの慧眼によるものだ。僕が選んだ五枚は、ハービー・ハンコックの作品を除くといずれも1500番台である。これはモダン・ジャズがこの時代にもっとも勢いがあったことも意味している。勢いがあったからこそ有能な新人が続々と登場し、ブルーノートが彼らに発表の場を提供したのである。
 中でも18歳のリー・モーガンが吹き込んだデビュー作は圧巻だ。完成されたスタイルと完璧なテクニックがこの作品で早くも認められることに驚かされた。一方、未完成ながらオルガン・ジャズの原型を提示したジミー・スミスの創造的なプレイもいまだ色褪せていない。ライオンが彼のライヴを聴き、その場でレコーディングを決めた姿が目に浮かぶようだ。モーガンにしてもスミスにしても、それ以前に一度もレコーディングをしていない。自分が信じたものを録音する。このポリシーがここでも貫かれていた。
 セロニアス・モンククリフォード・ブラウンの作品は12インチLPが登場する以前のものをまとめたものなので、「初リーダー録音を含む作品」ということになる。モンクの作品は、この時期に主要なオリジナルのほとんどが作曲されていたことを伝えている点でも興味深い。そしてブラウンの演奏は、モーガン同様に圧倒的なプレイが同時代の、そして後続するトランペッターに大きな影響を与えた。62年録音のハンコックのデビュー作は、ジャズ・ロックの〈ウォーターメロン・マン〉を収録しているのが大きい。オーバーにいうなら、この曲がのちのフュージョン・ブームにつながったといっていい。

★ 発掘版ベスト5
①『ザ・プロクラスティネイター』リー・モーガン(BNLA)
②『ソリッド』グラント・グリーン(LT)
③『オブリーク』ボビー・ハッチャーソン(GXF)
④『エトセトラ』ウェイン・ショーター(LT)
⑤『アナザー・ワークアウト』ハンク・モブレー(新BN・4431)

 リー・モーガンは60年代の多産な売れっ子だが、『ザ・サイドワインダー』の予想外の大ヒット後、アルフレッド・ライオンは二匹目のドジョウを狙うことになった。結果として彼のベストのセッションのいくつかが、シングル・ヒットするようなリード曲がないという理由でお蔵入りになった。そうした未発表セッションの『トム・キャット』も『インフィニティ』も僕は大好きだが、何より『ザ・プロクラスティネイター』こそ最強のものだ。モーガンの、そしてウェイン・ショーターの素晴らしい作曲は、奥行きと広がりを感じさせる。ボビー・ハッチャーソン、ハービー・ハンコックロン・カーター、そしてビリー・ヒギンズとの67年のセッションからの曲のことだ。それらの曲想やウェイン、ハービー、ロンの参加が、当時の偉大なるマイルス・クインテット的なものをリーの音楽に持ち込んでいる。
 グラント・グリーンも多作な売れっ子だ。発売されたアルバムはスタイルも楽器編成も多岐多様だが、それでもなお、ソニー・クラークマッコイ・タイナーとの未発表作品を彼の最良の録音とすべきと思う。それらのほとんどはカルテット編成だが、中でも僕は『ソリッド』が好きだ。ジョー・ヘンダーソン、ジェームス・スポールディング、タイナー、ボブ・クランショウ、そしてエルヴィン・ジョーンズとの、この気の遠くなるほど力強い64年のセッションはジョージ・ラッセルの古典〈エズ・セティック〉、ソニー・ロリンズの〈ソリテッド〉からジョー・ヘンダーソンの〈ザ・キッカー〉まで幅広いナンバーを演奏しており、最後のものはホレス・シルヴァー版を凌いでいる。
 60年代後半のボビーには少数の未発表作品しかないが、どれもが立派な出来だ。とりわけ67年録音の『オブリーク』は障害の最高作のひとつだ。そのスペシャルな音楽はハービー・ハンコック、ジョー・チェンバースと一体となって光輝き、無名のアルバート・スティンソンのベースにも驚くべきものがある。
 ブルーノートウェイン・ショーターは二つの未発表セッションを残したのみのようだが、いずれも発売済みのどの作品にも負けていない。ハービー・ハンコックセシル・マクビー、ジョー・チェンバースという輝けるリズム・セクションを従えた『エトセトラ』は、孤峰のように際立った作品だ。フランシス・デイヴィスが『ステレオ・レヴュー』誌に書いたように、「ウェイン・ショーターで一枚身銭を切るなら『エトセトラ』だ。作曲家にして即興演奏家である彼の天才がいちばんよくわかる」。
 ハンク・モブレーはひと財産といっていいほどの未発表作品を残している。中から一作といえばハンクが素晴らしいプレイを聴かせる『アナザー・ワークアウト』をあげるべきだろう。『ソウル・ステーション』『ロール・コール』『ワークアウト』という三大傑作を生んだ時期(1960〜61年)の録音で、どれもウィントン・ケリーポール・チェンバースが共演しているが、本作のドラムは(他のブレイキーでなく、『ワークアウト』と同じ)フィリー・ジョー・ジョーンズだ。

★ クラブ系ベスト5
①『バード・イン・フライト』ドナルド・バード(4048)
②『ザ・ゴールデン・エイト』ケニー・クラーク(4092)
③『モザイク』アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(4090)
④『ジュジュ』ウェイン・ショーター(4182)
⑤『ソウル・ステーション』ハンク・モブレー(4031)

 かつての「ダンスフロアでのブルーノート」という観点で言えば、パーカッシヴでアーシーで多彩なリズムを持ったケニー・ドーハム『アフロ・キューバン』(1535)やサブー『パロ・コンゴ』(1561)、ホレス・パーラン『へディン・サウス』(4062)などがあった。これらはロンドン・ジャズ・クラシックスとも呼ばれる、言わば“ジャズで踊る”ムーヴメントの聖典というべきもので、その流れは現在までずーっと息づいており、NU JAZZに括られるダンスミュージックはこれらの影響下にある。
 その文脈と同時にアメリカではヒップホップのネタ、つまりサンプリング素材として使用され、「レア・グルーヴ」という新しい価値を獲得し浮上したのがジャズ・ファンク作品の多い4000番台後期作品及びBNLAシリーズだ。アルフォンス・ムザーン『ファンキー・スネイクフット』、ルーベン・ウィルソン『セット・アス・フリー』(4377)やホレス・シルヴァーの通称“人心連合三部作”もこの範疇で構わないかと思う。ここで代表されるのはドナルド・バードがマイゼル兄弟、いわゆるスカイ・ハイ・プロダクションと作り上げた『ブラック・バード』であり『プレイシズ・アンド・スペイシズ』だ。かつてクリフォード・ブラウンの後継者と目されていたバードがブラックイズム回帰にどのようにして導かれたのは不明だが、結果的にBNでの全活動は、現在のシリアスなジャズ・シーンとはまた別の「広い解釈を持ったジャジーな音楽」という点で現在のダンス・ミュージックに多大な影響を及ぼしたことは明らかになった。
 僕が提唱しているのは黄金期のジャズを焼き直し、新しい価値を持って更新する作業の「夜ジャズ」だが、上記にリストアップした曲はそのフロアでの主なプレイリストで、ここでもバップ期のバードが登場する。

★ コンピ的名曲ベスト5
①〈クレオパトラの夢〉バド・パウエル
②〈枯葉〉キャノンボール・アダレイ(&マイルス・ディヴィス)
③〈ディア・オールド・ストックホルム〉マイルス・ディヴィス
③〈クリフォードの思い出〉リー・モーガン
⑤〈モーニン〉アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
⑤〈ラウンド・ミッドナイト〉セロニアス・モンク

 ブルーノートの楽曲を使用している主なコンピレーション盤189タイトル(計238枚)の合計858曲の中から、最も多く使われた曲のランキングを作ってみると、コンピに使いやすい曲の条件は、以下の三つだと思う。①メロディがいい(有名曲だと◎)、②演奏者が有名、③曲の長さが丁度良い。第一位〈クレオパトラの夢〉はこの条件にピッタリ。〈枯葉〉〈モーニン〉は10分前後とやや長いが、人気曲なので上位にランクインした。アーティスト別では、マイルスが一番多い。彼の美しいミュート・プレイは、どんなコンピをも上品に格上げする魔法がある。僕も選曲に困ったら、よくマイルスに助けてもらう。
 コンピにはさまざまなコンセプトがある。定番もののコンピは、収録される有名曲がそれぞれ個性的なので、どんな曲順で並べてもまずカッコよく決まる。これがオシャレを気取った雰囲気重視のコンピだと、選曲や曲順にいろいろ工夫が必要となる。
 アルト・サックスを並べるのが一番難しい。超個性派のマクリーンを雰囲気重視のコンピに使うことは稀だが、ルー・ドナルドソンの陽気な音色も、周りから浮かないように頭を悩ませる。でもブルーノートに珍しくスタンダードを多く録音しているので、彼を使いたくなる。反対に、テナー・サックスは低く渋い音色がジャズのムーディな雰囲気を醸しだす。だからアイク・ケベックの〈ロリエ〉など、あの〈処女航海〉ど同位になった。
 たとえ前述の三つの条件を満たしていても、TPOを考えて選曲しなくてはいけない。僕が担当しているFM局の番組でも一番苦労するところだ。でも、これが辛いけど結構楽しい作業なのです!

★ 新生ブルーノート・ベスト5
①『イン・ザ・モーメント』ダイアン・リーヴス(新BN.以下同)
②『ニュー・ムーン・ドーター』カサンドラ・ウィルソン
③『ファイツ・オブ・ファンタジー』ジョー・ロヴァーノ
④『インナー・サークル』グレッグ・オズビー
⑤『メデスキ、マーティン&ウッド』(原題“Uninvisible”)
番外編『ノラ・ジョーンズ』(原題“Come Away with Me”)
   『ハンド・オン・ザ・トーチ』アス・スリー

 70年代後半に静かに休眠に入ったBNだが、1985年マイケル・カスクーナらの尽力により、ブルース・ランドヴァルを迎えて復活。メジャーのキャピトル・レコード傘下にありながら、アルフレッド・ライオン譲りのインディのフット・ワークを持つレーベルとして、現在も話題作、問題作をリリースしている。
ダイアン・リーヴスは復活から現在に至るまで、そのキャリアをBNと共に歩んでいる。現代ジャズ・ヴォーカルの最高峰の圧倒的なライヴ・パフォーマンス・アルバムを選んだ。
また多様化する音楽シーンを体現する、カサンドラ・ウィルソンのグラミー受賞作も外せないだろう。
21世紀の“管豪”はジョー・ロヴァーノにとどめを刺す。現在まで20枚のアルバムをリリース、その醍醐味は小編成での、メロディが溢れ出るロング・ソロにある。さまざまなコンピネーションを網羅した『ファイツ・〜』を推したい。
 アート・ブレイキーの元には才能ある若手が集い、BNの歴史にも名を刻んだ。現代その大役を担ったのは、グレッグ・オズビーだ。巣立ったジェイソン・モラン、ステファン・ハリスらは、現代のBNの看板を背負っている。さらに、ジミー・スミスと契約した先進性は、90年代後半にも生きていた。NYアンダーグラウンド・シーンの寵児MM&W(メデスキ、マーティン&ウッド)は、BNから全米、世界へと飛び立った。その円熟期のアルバムをセレクトした。
 新生BNは、旧BNがなしえなかったビルボード・ポップス・チャート・ナンバー1も達成した。彗星のごとく出現したノラ・ジョーンズのデビュー・アルバムである。また旧BNとヒップホップを融合し、このレーベルの不変の新しさを広く世に知らしめたアス・スリー。このビッグ・ヒットを記録した二枚を、番外編として加えたい。

★ レア盤(完全オリジナル)ベスト5
①『クール・ストラッティン』ソニー・クラーク(1588)
②『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』(1530)
③『ハンク・モブレー』(1568)
④『ブルー・トレイン』ジョン・コルトレーン(1577)
⑤『イントロデューシング・ジョニー・グリフィン』(1533)

 ブルーノートはジャズの王者である。そんなBNのジャズは世の中に溢れており、レア盤なんてあるの?ということになるが、ことオリジナル盤(ファースト・プレス盤)に至っては入手が困難になる。たとえば、BNの1500番台全作品をオリジナル盤で揃えようとすると一生を要する。購入資金の問題が解決されても、「出会い」というのが解決されない。
 完全なオリジナル盤は、様々な条件をクリアしていなくてはいけない。そのキーワードは次のようになる。レコード盤のセンターラベルでは、「LEXINGTON」「47WEST63RD」「NY」「FLAT DISC」「DEEP GROOVE」「EAR MARK」「RVG」、Ⓡ有無、カバーでは、「INC」有無、「額縁ジャケット」。ラベルやカバー裏下部分に住所の記載があるが、これがまず重要なポイント。「LEX」は1543番位まで、「NEWYORK23」は、1577番(ただし片面のみも存在する)あたりまで、というように。BN盤に限らず昔のレコード盤にはセンターラベル付近に「DEEP GROOVE」(ミゾ)があり、重圧な存在感が頼もしかった。これも、4070番頃まで(諸説あり)刻まれており重要な要素。「EAR MARK」とはデッドワックス部分に草書体風に刻まれた刻印で、「耳」に形が似ていることに由来する。これにも諸説があるが、「PLASTYLITE」というプレスメイカーの機械の頭文字であるというのが近年定説になりつつある。Ⓡや「INC」は商標登録が絡む問題で、オリジナル盤判別の指針として、20年ほど前より重要視されている。
 では、前記に従ってBNの顔的存在『クール・〜』を検証してみると、住所は「47W63RD」で、「EAR MARK」有、「RVG」有、Ⓡ無、カバー裏にも「INK」無、セピア調の黄色がかったジャケットで完全オリジナル、状態の良いものは、50万円でも即売れてしまう逸品である。

★ 売行きベスト5
①『クール・ストラッティン』ソニー・クラーク(1588)
②『サムシン・エルス』キャノンボール・アダレイ(1595)
③『ザ・シーン・チェンジズ』バド・パウエル(4009)
④『ブルー・トレイン』ジョン・コルトレーン(1577)
⑤『処女航海』ハービー・ハンコック(4195)

 ブルーノートの売れ行きベスト5ということで、2004年6月から限定で発売になった「ブルーノート決定盤1500シリーズ」の売り上げ数を調べたのが上のリストになる。実に順当な順位だと思うが、そう思わせるところが名盤の強さだ。この「1500シリーズ」以降もアナログのコレクションやRVGリマスターと再発が続いているが、売行き上位のタイトルはさほど変わらないのが現状だ。
 膨大なブルーノートのカタログの中で、これらが売れ続ける理由は何なのだろう?それはたとえばジャケットのデザインだったり、モダンジャズの音=ブルーノートの音とされるくらいファンに愛される「音」そのものだったりするのだろうが、僕は実感として、名盤に名曲あり!を挙げたい。①には〈クール・ストラッティン〉が、②には〈枯葉〉、③〈クレオパトラの夢〉。④はタイトル曲〈ブルー・トレイン〉と迷うけども〈モーメンツ・ノーティス〉を、⑤〈処女航海〉という感じだ。どの盤にもブルーノートを代表する大名曲が収録されているのだ。
 振り返れば、僕自身も始めて買ったブルーノートのアルバムは『処女航海』だったと記憶している。もう30年も前の話だが・・・・・。
 そして、ブルーノートでいえば、グラント・グリーンの『ザ・ラテン・ビット』(4111)の溢れ出るノリノリ感や、ポール・チェンバース『ベース・オン・トップ』(1569)のB面でのケニー・バレルの素晴らしさ、ハモンド・オルガンを習うきっかけとなったジミー・スミスの『ミッドナイト・スペシャル』(4078)・・・・・等々をわが家のリスニングルームのお気に入りのステレオ・コンポでよく聴いたものだ。ヨーロッパのジャズが注目されたり、ピアノ・トリオのブームがあったりしても、売行きが不変のブルーノートの名盤たち。これからもレコードに代わり我が家のCDコレクションの棚は増え続けることだろう。

――― 完 ―――