多くのジャズメンに愛されているスタンダード・ナンバーとは?

 ジャズ・ファンの会話で一番よく耳にする言葉が「スタンダード」でしょう。しかし一部に誤解もあるようだ。
 先ず、出来た(作曲された)当初からスタンダードと言えるような曲はない。全ての楽曲はスタンダードに「なる」のだ。曲のジャンルは何でもいい。例えば《枯葉》という曲がある。これはバレエのための音楽としてジョセフ・コマスが書いた曲に、詩人のジャック・プレヴェールが歌詞を付け、1946年に映画『夜の門』でイヴ・モンタンが歌い有名になる。要するにシャンソンだ。
 しかしキャノンボール名義のアルバム『サムシン・エルス』でのマイルスの名演、『ポートレイト・イン・ジャズ』のビル・エヴァンスの斬新な解釈で、誰もが認める「スタンダード・ナンバー」へと成長した。

《枯葉》は特殊な例だが、スタンダードの大半はアメリカ製ミュージカル、映画の主題歌が占めている。いわゆる“ティンパン・アレー”の作曲家達の作品だ。一例を挙げれば、《朝日のようにさわやかに》は、オスカー・ハマースタインⅡ世が作曲家ジグムント・ロンバーグと組んで1928年に作ったミュージカル、『ザ・ニュー・ムーン』の主題歌だ。
 このようにポピュラー・チューンをジャズマンが好んで取り上げ、定番化すればそれがスタンダード、すなわち「定番曲」ということになる。すなわち世間で人気のある曲が必ずしもスタンダードという訳ではないし、ビートルズ・ナンバーをスタンダードと呼んでも、それがジャズマンによって数多く取り上げられていれば、何ら問題は無い。
 こうしたポピュラー・ミュージックの転用以外に、ジャズマン自ら作曲したものが定番化したものを「ジャズマン・オリジナル」等と称する事もあり、これもまたスタンダードなのだ。代表的なのはセロニアス・モンクの作った《ラウンド・ミッドナイト》だろう。
 それではスタンダードの意味とは何だろう。単に「よく知られている、親しみ易い」という切り口だけでスタンダード・ナンバーを演奏したようなアルバムがあるが、これは本来の趣旨とは違っている。
 そもそもジャズマンが繰り返し同じ曲を取り上げるのは、受けるからというような事ではなくて、特定の曲のコード進行がアドリブをとるのに適しているという理由からだった。それが定番化の第一歩だった。《オール・ザ・シングス・ユー・アー》等が典型例だ。
 次いで、特定の曲目を多くのミュージシャンが演奏すれば、同じ土俵の勝負と言う事で個性の違いが見えやすいという事がある。《ユー・ドント・ノー・ホワット・ラブ・イズ》等、コルトレーン、ロリンズ、そしてドルフィー錚々たる連中が共演しており、どれもが名演だ。アルバムは『サキソフォン・コロッサス』『バラード』『ラスト・デイト』。
 こうした同一曲で聴き比べこそ、聴き手にとってのスタンダードの意味なのです。